最初は、火村視線で書こうとした。
招待されたとある政治家のパーティ。
件の政治家の大演説が終わったあとは立食パーティへと移行し、背広姿の男たちはパートナーの腰に手を当てて人脈作りに躍起になっている。
人脈を作る必要の無い俺は、壁際に立って一番いい酒を舐めるように飲んでいた。
テーブルに並んでいる料理は見た目はいいが、味はイマイチ愛想が無い。
うんざりとして早く帰りたいと思ったが、公務できている以上はまだしばらく時間を潰す必要があるかもしれない。
さて、何をしようか。
男の年商当てか、人間の相関図作りか・・それとも、女の年齢当てか・・・。
どれもつまらなそうだと思いながら、しかしそれしか思いつかずに視線をさまよわせていると・・・
― ? ―
一人の女、白いルーズなドレスを着た女に目がとまった。
年齢は40代くらいで、昔は美しかっただろうという面影を目じりに残している。隣にたった男はたしか近頃外資に吸収された保険会社の社長。
特に気になるような要素はない・・・しかし・・・
じっと見ていてやがて気付く。
飴玉ほどもある大きなダイヤのイヤリング・・・それが片方しかない。
そういうものなのかと思いつつも視線をさまよわせ、他にもイアリングが片方しかないものや、ネックレスもないのに不自然に胸元の開いたドレスを着た女性がいることに気付く。
これは・・・っと思ったとき目に飛び込んできた男。
20代前半から半ばほどの男は楽しそうな微笑を浮かべて会場を横切っていた。
俺はそれを見て、彼の後ろをつけた。
彼が部屋に入ってから40分後。
香り立つようないい女がその部屋から出てきた。
170を超える長身を赤いドレスで包み、くるみ色の髪をアップにしている。
俺が見ているのに気付くと、女は真っ赤なルージュを引いた唇で僅かに微笑んで見せた。
自分が男にどう見られるか、男が自分を見てどう思うか・・・手に取るように分かるというようなその顔。
口角を引き上げて微笑んで見せれば、ちらりと流し目をくれて足を交差させるように腰を振って歩き出す。
すれ違う瞬間に香るのは、その風体とはかけ離れた“ナイルの庭”。
それがアンバランスを狙ってのものか、それとも単なる無知によるものか。
俺の興味をますます引く。
通り過ぎ様、僅かに目を伏せて目礼をしてみせる女の細い腰に腕を回すと・・・女は驚愕したようだった。
「相手を・・・間違えているんじゃありません?」
それでも気丈に上目を使って挑発するような仕草を見せる女。
女の腰を抱いたまま、無理に歩かせて間違いじゃないと言ってやる。
不審そうな顔の女、赤紫の石のついた耳元に口を寄せ、
「お前が、アリスだろう?」
囁くと、今度こそ女・・・いや、女装をした盗人は息を飲んだようだった。
「どうして・・・」
その言葉には笑ってしまった。不審そうに見上げるアリスに墓穴を掘っているぞと教えてやると、顔を真っ赤にしてなんとも言えない顔を見せた。
顔を赤くするアリス、寄り添うようにして歩けば通り過ぎる人々から羨望のまなざしを受ける。
長い廊下を進み、エレベータへ。
二人きりで乗り込むと、どうする気だと彼は聞いた。
「警察に突き出す気か・・・?」
次にアリス視線で書こうとした
政治家の献金集めのパーティ。
チケットを手に入れた私は、いつものように適当な経歴をでっち上げ青年実業家としての顔で出席した。
偽の名刺を配り歩いてそのたびに女性に愛想を振りまく、そして、すばやく彼女たちの身に着けている宝石類を盗んでいく。
イヤリング、ネックレス、チョーカー、ブレスレットはもちろん、髪飾りからアンクレットまで。
目についたものは片端から手を出して“回収”していく。
もちろん、一方的に。
男なんて、所詮、女の飾りには無頓着で、女は女で自分は完全に着飾っていると思っているからそれが盗まれたことには鏡を見ない限り気付かない。
今日の首尾は上々だ。
パーティが始まってから1時間もたたないうちにめぼしいものは手に入れた。
私は上機嫌で会場を横切り、そこを出る。
スタッフににこやかに挨拶をしながら悠々とした足取りで廊下をすすみ、エレベータに入る。
そして38Fに取っておいた部屋へと帰る。
ベッドに戦利品を並べ、そして・・・とんずらの準備だ。
シャワーを浴びて、身を清め。"ナイルの庭"を僅かに香らせる。
これから着る“ドレス”には不似合いだが、そのアンバランスさが気に入っている。
人によっては眉を潜めるものもいるが、エキゾチックだと息を飲む人もいる。私自身は、ミステリアスだと思っている。
イメージとしてはこうだ。
森の中に佇む洋館、そこに住んでいる妖艶な女主人。そこに招待状を受け取った人々が次々に現れる。そこで起きる殺人事件!
私はまさにその女主人といった役どころだ。
身体を清めて、私は準備していたヴェルサーチに身を包む。
裾を引きずる真っ赤なドレス。
ウィッグをつけてアップにし、自らを飾り立てる。
ぽってりと見えるように塗った赤い唇はグロスで潤ませ、鋭角に書いた眉の下には切れ上がったような目を作り、頬を僅かに桃色に染める。
陰影を濃くして、わざと高慢な女に見せる。
そうすればどうだ。私はどこからどう見ても女、それも、自分で言うのもなんだが、よだれを垂らすほどのいい女になる。
そして・・・最後の仕上げは前の仕事での戦利品で自らを飾り付ける。
つけるのは一対のイアリングのみ。
水滴の形をした揺れるイアリングだ。
胸元が少し寂しい気がするがこれは演出上仕方がない。
部屋を出て、廊下をすすむ。
通りかかった若い男のスタッフが私を見て息を飲む。
私はそれに一度微笑んで見せ、それからその男に近づいた。
「あの・・・すみません」
「は・・・はい、何でしょう?」
赤と黒の制服姿の男は恐縮したように立ち止まる。
「あの・・・15Fで開催されていた○○さんのパーティに出席していたんですけど・・」
いいながら胸元に手をやる。
「ネックレスをなくしたみたいなんです。それで、もし見つかったら・・・」
「あ。お客様もですか!」
「え?」
「実は、
結局、上げたものにおちついたわけです。(笑